ショーケースを見てまず、その斬新な色使いや形状のケーキが沢山あって驚きました。他のパティスリーさんではあまり見かけないと言うか、とても独創的ですね。
そうですね、一つ一つのお品を作るという意味でも勿論ですが、ショーケースにそれぞれのお品が並んだ時に、全体のハーモニーやリズムのプレゼンテーションは、かなり気を使って考えています。
パティスリーで扱われるお品は大きく分けると生菓子と焼き菓子の2つに分けられると思いますが、焼き菓子のほうは個性や彩りが出しづらいですよね。色のトーンが大体オレンジから茶色の間ですし、焼き型も伝統的なお菓子ななどは定型的。良くお見かけするピスタチオのケーキなんかも、鮮やかなグリーンを活かすために合わせる色はブラウンやイエローを使って全体を構成していることが多いように感じます。
捧シェフのケーキはその点、凄く斬新。ポイントとして真紅の赤を持ってくるなんて!
どのケーキをみても、ファッションや美容の業界にも通じるセンスがあるように思います。
そうですね。僕は美味しいっていう感覚ってどういう要素で出来ているのかな?って考えた時に、より多くの五感に訴えた時に初めて出てくる言葉なんじゃないかと考えているんです。僕の「美味しい」の原体験も、五感が多く刺激された時のことがより強く印象に残っているというのもあります。ですから実際に口にした時の味覚と同じぐらい、視覚から入る楽しさや美しさも重要だなと。具体的に言うと、ショーケースを作る時にまず色彩の面では、色の3原色を使って作りこみをするというコンセプトで構成しています。
五感を刺激することが美味しいにつながるっていう事にとっても共感します。見ていると惹き込まれる魅力があるお品が多いですよね。ドーム型のケーキにデイジーのような白いお花をあしらっているものもとっても可愛いし、形状も他で見たことがないというか。
―Sシェフ
はい。形状にも凄くこだわって作っています。ショーケースにならんだ時に、形状の違いで楽しさを演出したいと思っていますし、またお品が並んだ時の高低差にも気をつけています。なんというかリズムみたいな物が表現できたらと。あと直線的で男性的なデザインよりも、曲線を上手く使ってお菓子を優美に表現したいという気持ちもありますね。
―I
斬新な色使いや形状について、どんなものに着想を得ておられるのですか?
他のパティシエさんの作品をお手本に……というより、何か他のものにインスピレーションを得ておられるように思うのですが。
―Sシェフ
あんまり他のシェフの作品をお手本にするというのはないかもしれませんね。
お菓子は勿論ですが食べることも大好きなんで、食べ歩きなんかも良く行くんですね。食事に行った先で、和洋限らずお料理のプレゼンテーションはとっても面白いものが多いと感じていて、かなり参考になっている気がしています。
季節感って大事だと思うんですが、捧シェフはショーケースの中に並ぶお品を構成する上で、気をつけていらっしゃる点はありますか?あと今ショーケースの中に並んでいるものの中だと、一番目新しいお品はどれなんでしょう?
「パリブレスト」が一番新しいですね。本当は7月に出したかったのですが、プラリネが重たいので夏場には向かないかな……と思って、あえてこの時期に出しました。このパリブレストというお品は、1851年7月に開催された「パリ・ブレスト・パリ」という自転車レースにちなんで、レースが開催される街道沿いのお菓子屋さんが作ったのが発祥と言われているお品なんです。
とっても素敵なお話ですね。和菓子だとその季節にしか食べられないお品があったりして、並んでいるお品から感じられる四季などがあるなぁ~と感じていましたが、洋菓子の分野ではそういう経験があまりなかったような気が。例えば素材という意味では、栗の季節とかいちごの季節などありますが、そういう記念日に由来したお品があるっていうお話は初めて伺いました。
実は洋菓子でも、記念日とか宗教的な背景に絡んだお菓子(例えばガレット・デ・ロワ等)もあるんですよね。ただその事実があまり伝えられていないなぁ~という感覚は、僕自身もあります。僕らパティシエという職業は、そのお菓子が持っている背景や由来を伝えていくことも仕事だなって思っているんですよね。背景を知っていれば、作る時にも思いが入ると思うんです。そして絶対にその感覚は「味」にも良い影響が出てくる。
だからこそ、僕も勉強しなくちゃいけないし、それをきちんと伝えてゆく義務がある。ですから「成り立ちを知ること」も立派な美味しいの要素ですよね。
パンやデニッシュは開店当初から提供されていたのでしょうか?それともお客様のリクエストを得て、お始めになられたのでしょうか?
開店当初からです。日本で「パティスリー」と言うとケーキ、つまり生菓子と加えて焼き菓子があるお店という感覚があると思いますが、フランスではパンもあるしお惣菜なんかもあるお店をパティスリーと呼ぶ。つまりお食事がそこで全て調達出来るようなお店のことを言うんです。だからこのお店でもまず手始めに、パンはやりたいと思ってました。
私もお菓子を作ったりパンを焼いたりするから判るのですが、お菓子とパンでは製造のプロセスも違うじゃないですか。だから手間が凄くかかるんじゃないかとちょっと心配に。(笑)ケーキのほうもきっと手を抜かずに作っておられると思うので、大変なんじゃないでしょうか。
はい、大変です。(笑)
だけど美味しい物を食べてもらいたいっていう気持ちの軸は揺るがないようにしたい。最近では市販の材料でも優良なものが沢山あって、実はそれらを買い揃えてしまえば、お菓子ってできちゃうんですよ。安価で安定して美味しいものを提供できるという意味では価値があると思うんですが、それだと没個性になってしまう。
少なくとも僕が思う「美味しい」は、素材や材料を仕込む段階で発生する差分や、そこから来る感覚差の積み重ねこそが個性や刺激だと思っているから、市販の材料を使うことを避けたい。だから勿論手間がかかっていますが、ここで下手なことをするのは、お店を愛してくれている人たちに対する裏切りだし、皆さん美味しい物をたくさん食べているから、すぐに見破られちゃうと思うと怖くてできません。(笑)
そうですよね。きちんとした仕事をしていれば、地元の方々もファンになってくださるだろうし、そういうファンを増えていけば、お店はきちんと成り立ちますよね。
―Sシェフ
そうですね。地元の方もよく訪れてくださっているのは、すごく嬉しいです。
カフェがママ友たちの集いの場になっていたり、ご近所のおじいちゃま・おばあちゃまが、親しみやすい日常のおやつとしてシュークリームやロールケーキを買いに来てくださることも多いので、そこが今後も大事してゆきたいと思っています。
私は実は食べ専門なので(恥)、話している内容が高度すぎて分からなかったくらい……。
やっぱりお菓子作りって奥が深いんだなぁ~と思いながら、お二人の話をただただ頷いて聞くばかりの私。嗚呼、もっと精進しなくっちゃ!
同性のお友達なら、よくご飯に行ったりお茶したりしてますよね。だからきっと食べ物の好みなんかも良くしっているはず。
だとしたら見た目の美しさも含めて、プレジールさんの可愛い生菓子を持って遊びに行きたいな。
通っているお教室で一緖になる方や、同僚な何かの共通の目的でお目にかかる機会のある方は、話せる時間も限られている可能性が。なので手軽に食べられて、お腹も満たせるデニッシュやパンを。生菓子のようにお皿やフォークを準備する手間もないし、手軽なお食事だからこそ美味しいものを一緖に頂けたら嬉しいかも。
お呼ばれしているメンツにもよりますが、そういう場合はコンフィチュールなど、ホスト一家が頂けるものをおもちするのもいいですよね。朝食にどうぞ、なんていう感じで。
男性は甘いモノが苦手な方もいらっしゃるので、極力甘みをおさえてた焼菓子の中からお酒に合いそうなものを。甘いものが苦手っていうのは決して甘みが全くないもの、という意味じゃなくて、強い甘味に対する抵抗感があるという意味だと思うんですね。だから甘み以外のスパイシーな風味がするものなどを選ぶかな。
インタビューの中で「ふむふむ」とうなづきつつも、言葉数が少なくなっている捧シェフ。どうやら次の作品のヒントを得ておられたよう。おもたせ的に利用されることの多い焼き菓子の動向は、捧シェフの最近の感心ごとの一つでもあったようで、新しいお品が店頭に並ぶ日も遠くないかもしれません。楽しみだなぁ~!それにしても取材の日に頂いたホワイトチョコを焼いて粉砕して作ったクリームの入ったお菓子「ムース ショコラ キュイ!?」。チョコなんだけど、バニラっぽくもあって、キャラメルっぽくもあって……うーん!不思議なお味でクセになりそう!
PAGE DESIGN By y.yoshida
Published: September 17, 2011
- Patisserie et Cafe “Plaisir” (プレジール)
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- 10:00~20:00
- http://ameblo.jp/plaisir-daizawa