こんなイベントに潜入しちゃいました!

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<ごはんとおかずのルネサンス>おせち試食会@イル・プルー・シュル・ラ・セーヌ
まさに冬らしいというか、空気が澄んでいて星空が綺麗な冬の日々が続いていますね。クリスマスを終えたら街はあっという間にお正月の様相に変わり、手際の良さに驚かされるばかりです。わたしはこういうムードを先取りしたり出来ないタイプですが、先日イル・プルー・シュル・ラ・セーヌさんで開催された「おせち試食会」に参加させて頂き、季節感をいち早く味あわせて頂く機会に恵まれました。
イル・プルー・シュル・ラ・セーヌさんは御存知の通り一流パティスリーかつ製菓学校ですが、校長の弓田亨シェフ・パティシエが日本における「食」を取り巻く環境に対する危機感に駆り立てられ、同教室の椎名眞知子先生と共に発足したのが「ごはんとおかずのルネッサンス」という活動。近代化の代償によって失われた古き良き食にまつわる様々な習慣、西洋の調理法や素材使いからひらめきや気付きを取り入れて「純粋で美味しい和食」を再現する方法を提唱する等、半ばボランティア活動のような形で10年以上続けておられます。
とりわけ「おせち料理」というのは、和の象徴的な食事であることから、「ごはんとおかずのルネッサンス」の活動の中でも重要な位置づけのテーマであるのではないでしょうか。
また個人的に「おせち料理」があまり好きではない私にとって、イル・プルー・シュル・ラ・セーヌさんがこのテーマに取り組んでおられるということ自体が大変興味深い事であり、同店のお菓子と同様に「おせち料理」でも感動を与えてもらえるのではないだろうかと期待を持って参加しました。
試食の感想は後述するとして、結果的に期待以上の新鮮な驚きと感動と満足を感じたこの試食会。
これを機会に自分でもおせち料理にチャレンジしてみようと一念発起し、レシピ本を頂戴してまいりました!(サインまでして頂いて…♡)
この本が素晴らしいのは、準備カレンダーが巻頭のインデックスに準備カレンダーがあり『いつ、どのメニューの準備を始めればよいか?』がひと目で分かるところ。初心者の方でも、選んだメニューの準備日程に従えば、素敵なおせちでお正月を賑々しく迎えられるという、気配りのなされた内容。(ということを帰宅後、本を開いて歓喜)すばらしい…。
掲載されているメニューはお正月だけでなく活用できるものも多いし、和でありながらイル・プルー・シュル・ラ・セーヌさんらしさというか、洋のエッセンスも散りばめられています。これは我が家の教則本になるだけでなく、これから母になる友人へのプレゼントとしても素敵なアイテムだと感じました。
本日は12月28日。早速黒豆の準備を始め、他に今から間に合うメニューは何かなと楽しく想いを巡らせているところです。

さて本題の……。
この日試食をさせて頂きましたおせち料理のメニューは「鰯の蒲鉾/白い蒲鉾」「なます」「鮭の昆布巻き」「ごはん」「煮〆」「黒豆」「胡桃と栗のきんとん」の7種。なんとこの中にわたしが苦手なメニューが4種類も……。さてそれぞれの試食の感想はいかに……?!
1品目:鰯の蒲鉾/白い蒲鉾
蒲鉾や魚の練り物大好きです。おばあちゃんや母がよく作ってくれていたので、懐かしい味であることは確かなのですが、スーパーで買うことはあまり無いのも事実。デパ地下の催事で出ている美味しそうな練り物なら買うこともあるかな?という程度。
試食で頂いた蒲鉾は本当にどちらもはっとするほどの味わい。魚の旨味が圧倒的な凝縮感でそこに存在していて、咀嚼し飲み込んだあとにも口の中にふわりと残る余韻が素晴らしい。少し塩が強い感じがしなくも無いのですが、その塩梅こそが魚の美味しさを引き立てているのだと、弓田シェフのお話を聞き納得。
巷で売られている蒲鉾は食感こそプリプリとしてはいるものの、本来の魚の持つパンチの強い味わいは感じられないものが多いということを改めて気が付かされる瞬間です。(もちろん、淡白な味のほうがメニューに取り入れやすいのかもしれませんが…)
わたしはお酒を呑むのも好きなので、これは家庭で出来るのならおせち料理と言わず日々作りたいとすぐさま思いました!弓田シェフ曰く「誰にでも簡単に出来る」とのことなので、この時点でチャレンジするぞ!と固く決意。(笑)いやぁ、美味しかったです。
2品目:なます
実はおせち料理の中で最も嫌いなのが、このなますというメニュー。酢の物が嫌いというわけではないのですが、おせち料理に入っているなますの、野菜の新鮮さが損なわれたように感じるくたっとした食感と強烈に甘く強烈に酸っぱい組み合わせにどうしても好感を持てず、それでも様々なところで出てくるメニューでもあるので、時折ためしてみるものの嫌悪感を増し続ける…という悪循環に陥り、昨今は出されても手を付けずにいたメニューです。
試食をさせて頂いたなますは、お味はもとより見た目からまず違いました。大根の白と人参の黄赤の2トーンカラー、つまり2つの食材のみで構成されるのが私の知る「なます」だったのに、目の前にあるなますは色のバラエティがあります。思うよりもずっと多くの素材が使われていて、その素材にも驚きが。
食感の面白みを加える干し大根、砂糖やみりんの代わりの隠し味的に使われる干し杏のほの甘さ、アクセントを作り出す鮭の皮や昆布や胡麻やお揚げ!強烈な酸味だけで私をノックアウトする米酢の代用品として使われているのはなんと、スペイン産のシェリービネガー。実はこの素材選びも「ごはんとおかずのルネサンス」の興味深い点で、西洋や諸外国の良質な素材を「和の根源的な味を再現するため」に採用するということ。とても面白い逆転現象ですよねぇ~。なんだか驚いてしまいました。
このなますを食べつけていたら、好物になったに違いないお味で大満足。
3品目:鮭の昆布巻き
こちらは甘すぎる味付けとヌルヌルとした食感が苦手で積極的に食べないお品の一つです。
魚と昆布の旨みが一体となるわけですから、絶対に不味いわけじゃないのですが、食感も好みを決める大きな要素ですよね。
なんとこれもまた、嫌なヌルヌル感が全くないのは驚きです!秘密は加熱温度を決して上げ過ぎないことと、旨みを逃がさない素材の下処理にあるようです。昆布についた白い粉はまず拭いて……とか、かんぴょうは水で戻して塩で戻すなど愚の骨頂!とは弓田シェフのお言葉。そこにある素材の栄養素や旨みを捨てているようなモノ、なんだそうです。
教えられたことや習慣の中であたりまえと感じ実践していたことですが、確かに仰るとおりなのですよね。それが本当に正しい方法なのか?と考えてみるというのは料理だけじゃなく仕事も日常生活も同じですから、考え方を柔軟にし、ニュートラルに良い方法を見つける努力をしなくちゃイケナイな……と、妙に反省するほど、印象的な食感でした。
4品目:ごはん
白米になんの違いが?なんて声もあがりそうですが…
日本のお米にタイ枚を半量混ぜ、昆布やいりこをほんの少し、そしてオリーブオイルを少々入れて炊きあげたもの。タイ米の良い香りが全体にやわらかくまわり、嗚呼昔のお米ってこんな感じだったよなぁ~という郷愁感を誘うのです。美味しいお米ってたくさんあるけど、もしかするとお米って精米し過ぎないほうが、個性が出るのかもしれないですね。
5品目:煮〆
これは普段から大好物。ただ美味しく食べ続けられるお煮〆とそうでないものが有るのもたしか。
使われている素材自体は自分で作るのも、他で出されるお煮〆も大差はないようですから、味付けと調理による違いよね……、わたしの思考的な分析はここでとどまっていました。
調理には、実は不要な手間もある。このレシピの解説ではそのことを教えて頂きました。料理の世界では定説とされている素材の下処理も、場合によって無意味どころか味や栄養素を損ねる結果になることもたくさんあるのだそうで、特に「皮を剥き、素材を水にさらす」ということは、水のなかに栄養素をわざと逃がす行為に等しいと。この煮〆のレシピでは素材の旨みを閉じ込めるために、西洋料理のメソッドで一旦油の皮膜を作ってから煮込む方法を用いておられ、本当に滋味深い味わいがあります。
また「ごはんとおかずのルネサンス」のレシピ全体を通して言えることですが、砂糖やみりんを使わないことは大変重要な要素。安易に甘みを添加して味を組み立てたると、一口目は良くともべったりとした飽きが来る味になる。砂糖やみりんの甘味に頼る代わりに、いりこを基本とした出汁をきっちりと摂り、丁寧な味の層を作り出すことが最終的な満足感に繋がるともおっしゃっていました。なるほど……。私が食べ続けられないと思った煮物には砂糖やみりんがたくさん使用されていたのかもしれませんね。(私が家で作る食事はほとんど、みりんも砂糖も使わず出汁と塩がベースでして、この点においては弓田シェフのメソッドを偶然にも実践していたのです。)
6品目:黒豆
実はこれも苦手なお品の一つです。見た目はつやつやと美しく、重箱の中でも映えるお品の一つですが、どうも砂糖の甘さとザラザラとした豆の食感だけが突出しているせいか、あずきも含めて「甘い豆類」を美味しいと思ったことがなかったのです。
試食で頂いた黒豆は、歯で感じる豆の食感やある程度の硬さが残っていることが嬉しい。この硬さというのは、豆が本来の美味しさを持ち崩さずにいる感じと言えばいいでしょうか?水を含み過ぎると煮崩れてザラザラした舌触りの豆に仕上がるってことなんだなぁと理解しました。また甘さも控えめにすることなく、がつんと甘いわりに、程よい硬さを保っているせいか、豆のほっくりとした味と外側に纏っている蜜の甘さのコントラストが絶妙なのです。豆を摘むお箸がお皿と口を何往復したことか……。
7品目:胡桃と栗のきんとん
実はこれも嫌いなのです…。黒豆が嫌いな理由とほぼ同じなのですが、水っぽいザラザラした砂糖を食べているみたいだ、と感じたことが原因で、ほとんど頂いたことがありません。
こちらも「わたしの嫌いな栗きんとん」の見た目とは明らかに様子が違うように感じました。(私の記憶が間違っている気もしていますので、その点は間引いてお考え頂けると嬉しいのですが)私の思う栗きんとんはテクスチャがなめらかで色が明るい黄金色なのですが、試食したものは柿色のような濃い色味でテクスチャも芋栗特有の、蒸してマッシュしたイメージそのままのテクスチャ。頂いてみるとほっくりとしたさつまいもの味わいの奥に香ばしい胡桃風味を感じ、栗の存在など無くとも成立するというか、きんとんが際立って美味しいのです。すっかりきんとんに対する認識が変わってしまった一品です。
こうやって考えると今までとっても損していたような気分です。笑
うちの母は私がおせち料理を好まないことを知っていて、定番的なメニューであっても私が食べないものは作らないようになっていましたから、今食べると違う感想もあるかと思うのですが、まずは手始めに母にも私のつくるおせちを食べさせてあげる予定です。2013年のお正月は少し親孝行が出来るといいな。

というわけで。
みなさまも健やかお食事で、穏やかで健康的なお正月をお迎えになられますことを、心よりお祈りしております。
本年中も大変お世話になりました。
2013年ものんびりとした調子ではあると思いますが、美味しくてちょっとシアワセな情報をお送りできるよう頑張りますので、何卒ご愛顧頂ますようお願い申しあげます。
ボナクイユ主宰より心をこめて。

左:おまけショット。本にサインをしてくださっている、弓田シェフと、椎名先生。(椎名先生のお顔が見えず残念ですが…)
右:甘いものは別腹とサービスで頂いたアントルメ。シャンパンのクリームとフランボワーズの爽やかな酸味が印象的で、文字通り別腹でした!
  • IL PLEUT SUR LA SEINE( イル・プルー・シュル・ラ・セーヌ)
  • 〒150-0033東京都渋谷区猿楽町17-16 代官山フォーラム2F
  • 03-3476-5211
  • 11:30~19:30 ※定休日火曜日
  • http://www.ilpleut.co.jp
TEXT By n.okumura
Published: Dec 28, 2012