世界の“美緑”を探せ

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お酒の由来は古く、有史以前より作られ消費されていたようです。宗教的背景や文化的背景によってその扱いは様々ですが、時に神聖なものの象徴として、時に悪徳として遠ざけられる存在であるのは、お酒が与える影響……それは享楽であり、影響の大きさからにほかなりません。現代に生きる私達にとって、お酒は日々を楽しく豊かにしてくれるものとして欠くことの出来ない存在。 だからこそ、単純に美味しく楽しみたい!時にトリビア的に「ほぉ!」と膝打つ小ネタや、時にお酒周辺ペダンチックに楽しめるお話を、赤坂のオーセンティック・バー「Bar Moonshiner」のマスター・バーテンダーである関根真樹氏を始め、お酒のプロフェッショナルたちにお話を伺いながらに連載してゆきます。

“美禄”とは:中国「漢書」の経済にまつわる記載項目『食貨志』の中で、“酒は天の美禄”との記載があったことから、お酒の美称として定着したことに由来します。

Bar Moonshiner (赤坂)
マスター・バーテンダー
関根真樹氏
丁度、秋から初冬に収穫期を迎える「林檎(リンゴ)」。
旧約聖書の中でアダムとイブの禁断の果実として登場したり(この禁断の果実がリンゴであるというのは後に創作された俗説だそうですが)、ニュートンの万有引力発見のキーアイテムとなったり、ウィリアム・テルの逸話にと登場したりと、古今問わず人気の高い果物です。
シードルに代表される林檎を発酵させて作る醸造酒も、欧米広いエリアで愛されるお酒の一つ。
イギリスで人気の「ストロングボー」を始めとするサイダーは、アルコール飲料の中では比較的安価で手に入るため、労働者層や若者たちに人気。(アメリカで「サイダー」と言えば、近頃はノンアルコールタイプのモノを指すことが多いのは、大手飲料メーカーのマーケティングプロモーションの結果だそう。ここでは北米の話は割愛しますね)
フランスの『シードル』は、ノルマンディやブルターニュを原産とするものが特に知られており、ワイン同様AOC(原産地呼称規制)に寄って管理されているお酒です。一般的に同じブランドのシードルでもドライとスイートなど味の違いがありますので、その点はお好みでお選び頂けますし、最近ではオーガニックの製法のものなども出てきており、選ぶ楽しみもあります。スペインでは『シドラ』と呼ばれ、カンタブリア山脈一帯で生産されており、特にアストゥリアス州のものが有名。アストゥリアスで作られた林檎果汁のみを使ったものをシードラ・デ・アストゥリアスと呼称しているそうです。少し脱線しますが、「ベネンシアドール」をご存知でしょうか?スペイン料理のレストランに行くと、たまに見かける「おいおい、それじゃ零れちゃうよ!」と心配になってしまうほど、高い位置からグラスにシェリー酒を注ぐプレゼンテーションスタイルです。このスタイル、かつてシェリー職人が試飲の際にベネンシアという器具を使って注ぐことに端を発したもので、シェリーを空気に触れさせることで『香りを立てる』ための所作だったそうですが、今はそれがプロモーション目的に行われており資格試験などもあるんですよ。そして実は同じく『シドラ』にも「エスカンシアール」というスタイルもあるんです!シェリー同様、その独特の注ぎ方にはかなり熟練が必要で、プロのエスカンシアドールという職業が存在します。その名もずばり「エスカンシアドール」という商品名のシドラもあって、そのプロモーションキャラクターがまた可愛らしい。「シードルの名産地であるブルターニュ、実は音楽がとてもケルト民謡に似ているんです。」と、関根さん。
調べてみると、フランス・ブルターニュ地方(かつてのブルターニュ公国)の名前は、ラテン語で「ブルトン人(イギリスのブリテン島に住む人)」を意味する言葉で、古来よりイギリスからの移民が多く、文化的にもそれが色濃く残っているのだそう。
こうやってお酒の歴史背景をたどると、面白い史実に出会うことが出来るというのも、お酒の楽しみかたの一つですよね。
エスカンシアールのお作法を解説(スペイン語)何故わざわざ……という注ぎ方にも見えますよね。笑
ロイックレゾン ボレ・ド・アルモリック・ドゥ(甘口)

ロイックレゾン ボレ・ド・アルモリック・ドゥ(甘口) アルコール度数2%のシードル。 これならアルコール苦手な人も楽しめるかも。

エスカンシアール

こちらその名も「エスカンシアドール」というシードルブランドのキャラクター人形。可愛いです。

Bretagne

ブルターニュ公国の国旗。この旗は、ブルトン語で“Gwenn ha Du”日本語に直すと「白と黒」を意味。

お酒の原材料としても多用される「林檎(リンゴ)」、代表的なものとしては『カルヴァドス』があります。
フランスのノルマンディ地方で作られた林檎を素に作ったシードルを蒸留してつくるブランデーの総称で、AOC(原産地呼称規制)がかけられているため、同じ原料・同じ製法で作られたものであってもノルマンディの限定された地域以外で生産されたものは「アップル・ブランデー」と呼ぶことで区別されているんですよ。(シャンパーニュとヴァン・ムースのようなものでしょうか?)
ちなみに『カルヴァドス』の原材料が100%林檎のみということはあまりなく、洋梨が一定量混入されるのが普通であるとか。
フランスのカフェでは『カフェ・カルヴァ』として、エスプレッソとカルヴァドスの組み合わせで飲むのも一般的。

Adrien Camut prestige(エイドリアン・カミュ・プレステージュ)。 熟成40年~50年物をブレンドした最高級品のカルヴァドス。目白田中屋さんで撮影させて頂きました。素晴らしく美味しいのです。

こちら撮影協力を頂きました、目白田中屋さんのお品。(非売品)買い付けにいかれたヨーロッパで見つけて購入なさったそうです。可愛いフォルムが印象的!

【AOCのあれこれ】
AOCの既定によりEau de vie(オー・ド・ヴィー)と名乗れる原材料は葡萄、洋ナシ、リンゴ、さくらんぼう、ミラベル(プラムの一種)、クエッチ(プラムの一種)。これ以外には特別に14種、ニワトコ(赤)、ニワトコ(黒)、イチゴ、カシス、木イチゴ、ナナカマド(栽培)ナナカマド、スグリ、西洋ヒイラギ、ニワナナカマド、野バラ、ブラックベリー、 ブルーベリー、リンボク(プリュネル)で、これら以外の果物から作られる蒸留酒はspiritueux(スピリチュー)と呼ばれます。
カルヴァドスの正式名称は、<eau-de-vie-de-cidre-de-carvados>(カルバドス地方のリンゴで作ったワインの蒸留酒) 。
AOC規格以外のアップルブランデーは、<eau-de-vie-de-cidre>(リンゴで作ったワインの蒸留酒) 。
イギリスでいうアップルジャックは<eau-de-vie-de-vin-de-marc-de-cidre>(リンゴのワインの絞り粕から作った蒸留酒)となります。
ジャック・ローズ Jack Rose (ジャック・ローズ)
カルバドスのカクテルといえばJack Roseですね。
カルバドスをベースにグレナデンシロップ(ざくろのシロップ)とフレッシュのライムジュースをシェークしたカクテル。よく冷えたカクテルグラスに注ぐと色鮮やかな赤にカルバドスの芳醇な香り。色と香りを楽しみつつ口に含めばライムの酸味が全体を丸く包み込みます。この優雅でエレガントな大人のカクテルは女性にオススメです。
モン・サン・ミッシェルMont Saint-Michel (モン・サン・ミッシェル)
実はコレ、オリジナルです。
ボナクイユさんからの提案『冬にも美味しいカクテルを!』で作りました(笑)作り方は簡単。まずは果肉入りの林檎ジャムをお湯で溶きます。 そこへカルバドスを少々。(あまり入れすぎるとお酒の苦味が出ますのでご注意を。)単純なレシピですが美味しいです。 さて、半分ほど飲んだらそろそろ沈んだ果肉が気になるところですね。 そこでシナモンスティックの出番です。 グラスの中をくるくるっとかき回すとスパイシーなシナモンの香りと共に林檎が 宙を舞います。 つるっと口に入った林檎は柔らかくて暖かくて美味しいですよ。
以上、いかがでしたでしょうか?
林檎という切り口でもこれだけのお酒があり(詳しく言えばもっとありますが)、その歴史や文化があります。
バーに出かけたら、バーテンダーさんがお暇な折にぜひ色々お話を伺ってみてください。
新たな知識の扉を開くと、今まで以上にお酒を楽しくなること請け合いです。
TEXT By n.okumura
PAGE DESIGN By y.yoshida
SPECIAL THANKS to : 目白田中屋
Published: November 15, 2011
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