世界の“美緑”を探せ

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お酒の由来は古く、有史以前より作られ消費されていたようです。宗教的背景や文化的背景によってその扱いは様々ですが、時に神聖なものの象徴として、時に悪徳として遠ざけられる存在であるのは、お酒が与える影響……それは享楽であり、影響の大きさからにほかなりません。現代に生きる私達にとって、お酒は日々を楽しく豊かにしてくれるものとして欠くことの出来ない存在。 だからこそ、単純に美味しく楽しみたい!時にトリビア的に「ほぉ!」と膝打つ小ネタや、時にお酒周辺ペダンチックに楽しめるお話を、赤坂のオーセンティック・バー「Bar Moonshiner」のマスター・バーテンダーである関根真樹氏を始め、お酒のプロフェッショナルたちにお話を伺いながらに連載してゆきます。

“美禄”とは:中国「漢書」の経済にまつわる記載項目『食貨志』の中で、“酒は天の美禄”との記載があったことから、お酒の美称として定着したことに由来します。

Bar Moonshiner (赤坂)
マスター・バーテンダー
関根真樹氏
リキュールって沢山の種類がありますよね。
果実を漬け込んだものや、ハーブを漬け込んだもの。またそれらを漬け込むために使うスピリッツ(蒸溜酒)の種類や漬け込みの方法よっても、風味に変化が生まれる不思議なお酒です。今回はその中でも「液体の宝石」と称される、麗しのリキュール「マリエンホーフ」について、輸入総代理店・株式会社エーデルリケールの代表を務める中尾友紀氏にお話を伺ってみようと思います。
リキュールとはご存知の通り、英語のLiquor(リカー)のフランス語読みです。もう少しその歴史を遡ると、生命の水(アクア・ヴィテ)を作る、錬金術師の時代にたどり着きます。錬金術師たちによって作られた生命の水(アクア・ヴィテ)と命名された蒸溜酒は、13世紀に入りその薬効を高めるためにローマの医師がレモンやバラを溶け込こんだことで、薬(エリクシル)としての役割が更に大きくなりました。エリクシルという言葉が、現代でも化粧品名の語源になってたり、RPGゲームの中で体力回復アイテムの名前に似たような響きを見かけるのは、こんな理由からなんですね。その後に私たちが使うようになったリキュールという言葉は、ラテン語で「溶け込ませる・液体」という意味をもつ「リケファケレ (リケファセレ、アルファベット表記:Liquefacere)」が語源になっていると言われているそうです。
まずはリキュールを構成する原料を大きく分けると「蒸溜酒」と、漬け込みに使われる副材料「果実」「香草・薬草」「種子系」「特殊系」に分かれます。
どんな蒸溜酒を使用してリキュールを作るか?は、リキュールの味わいを決定する重要な要素ですが、一見、漬け込みに使われる副材料はどのメーカーも同じようなアイテムです。もちろん産地にこだわった副材料を使うことで個性を作り出しているということも考えられますが、実は品質や個性に大きく影響するのは、副材料からエッセンスを取り出す方法だったり、漬け込みなどの製造方法に纏わる部分が大きいと言えるようです。
Marienhof
ドイツ・プファルツ地方はその昔ラインファルツと呼ばれており、近年「プファルツ」と改名されました。フランス・アルザスとの国境近くに位置するこの地方は、ドイツで2番目に大きい葡萄栽培地としても有名。そして高名なワイン農家が居並ぶこの街の中でも優れた生産者として名を知られているマリエンホーフ社。マリエンホーフ社は高品質なリースリング種の葡萄から作るブランデーを使い、最高級のリケールを産み出すマニュファクチュール(自社一貫製造するメーカー)で、17世紀から一子相伝で伝えられてきた秘伝の製法技術を守り続けて今に至ります。と、中尾氏は教えてくださいました。
伺うところによると、どうやらこの“昔ながら”の製法にマリエンホーフ社のリケールが「液体の宝石」と讃えられる多くの理由がありそうです。リケールの副材料となる花や果実は必ず、新鮮で高品質なものを使うことはもとより、それら全てを『湯せん蒸溜』という方法で丁寧にじっくりとエッセンスを抽出。この方法こそがマリエンホーフのリケールが持つ、香りの余韻の秘密なのだそう。では、湯せん蒸溜とはどのような方法か?ムーンシャイナーのマスターバーテンダー・関根氏と中尾氏のお話の中から要点をまとめると……
  • 湯せんだから当然100度以上温度が上がらない。それすなわちエッセンスの抽出にものすごく時間がかかる
  • 温度が高温になり過ぎない分香りの成分の破壊が起こらず、自然な、そして凝縮感がある香りが残る
大量の原料を湯せんするには、その機械も大掛かり。それに時間がものすごくかかるから少量しか生産できないという、現代の技術進歩に全く逆行をしている古典的な方法であるということが良く判りました。
産業革命以後、文明の利器の発達に伴い、生産業の効率は飛躍的に向上し潤沢な利益と製品の流通をもたらしましたが、製造時間の短縮によって図らずも失われる事もあるんだなぁ~と、妙に感慨深い気持ちになりました。そしてそれがまさに「余韻」という、時間に浮遊する感覚であるということにも、何か深い意味を感じざるを得ませんよね。丁寧にじっくりと重ねた時の向う側にある味わい。人間と同じですね~と、中尾氏。妙に腑に落ちた瞬間です。
marienhof-colors

マリエンホーフのリケールといえば、見目麗しきその色合いが話題になることもしばしばありますが、このような美しい色合いも全て副材料となる素材の天然の色からなるもので、着色料を使用しているものは1つも無いのだそうです。特に梅のリケール「ブルー・プラム」は、あまりにも鮮やかで美しい青色なので、よくお客様からもご質問を頂くようですが、もちろん天然の色。ただしちょっとしたトリックが。抽出したエキスをブランデーに浸透させて1週間から10日ほどの後、色素の一部を脱却して、より深い色を出すというなんとも手の込んだ作業をなさるそう。「ブルー・プラム」の場合は、赤の色素を出来るだけ取り除くことで、その際立つ美しい青を引き出しているというわけです。まるで化学の実験のようなその方法も、詳細は門外不出。ミステリアスなところがあるのもまた興味深いですよね。

好きな時に好きなお酒を飲むのが一番!と思っていても、リキュールってどうやって頂くのがいいのかなかなかピンと来ない……。そんな方も多いのではないかと思います。例えばビールやワインのようなタイプは、いわゆる食中酒としても頂き易いお酒ですよね。(単体でも勿論OKですが)

iStock_000002591649XSmallさてリキュールはどのように頂くのが良いかといえば、やはり食後酒として頂くのが代表的ですよね。
食後酒は「digestif(ディジェスティフ)」とも呼ばれ、文字通り消化を助ける働きも持ちあわせているというポイントは、古来の「薬液」に通ずるお話。今日は食べ過ぎてしまった……なんていう時は、食後のコーヒーや紅茶の後に頂いてみて下さい。

余談ですが、フレンチの一連のコースの中で、デセールの前に出てくるチーズ「なんでこのタイミングで……?」と疑問に思う方もおられるかも知れませんが、実はチーズにも消化促進の働きがあるから、だと伺ったことがあります。

ちょっと話が前後しますが、もちろん食前酒にだって登場するんですよ。
カンパリやベルモットなどのビター系(苦い)リキュールは、胃を刺激し食欲を増進する効果がありますから、アペリティフのメニューの中に見かけることもありますよね。また、フランスでは夏バテ予防に極めて薄いペルノーの水割りを子供に飲ませることもあるんだとか。日本で言う卵酒みたいなものでしょうか。笑

atoatokatoka_sakura_003主に製菓などと思いますが、食べるものにリキュールを使うことだって大いにアリだと思います。
ただ製菓となると、ご自宅で出来る環境がある方も限られているのではないでしょうか?
(お写真はあとあとかとか。さんの季節限定 “春” 桜のケーキひらひら
そんな方々にオススメなのは、アイスクリームにバタースカッチや種子系のリケール(コーヒーやショコラなど)をかけたり、チーズケーキにブラッドオレンジのリケールを垂らして…なんていう頂き方も。暑い季節なら、クラッシュアイスにそのままふわりとかき氷のようにして頂くのも、人気があるそうですよ!マリエンホーフのHPにおすすめレシピの掲載もありますので、是非こちらも合わせてごらん下さい。
バーで頂く場合は、その時の気分をバーテンダーの方にお伝えし、オススメのカクテルとして頂くのが良いと思います。
ただマリエンホーフ社のリケールをお取り扱いされておれれるバーならば、ストレートで頂くことをオススメされるかも知れません。何故ならマリエンホーフのリケールの魅力を存分に感じるのであれば、それが一番いい方法だから。
あるいは「香りを愉しむ」という観点から、大変人気な頂き方として、ローゼンのリケールをシャンパーニュと合わせて頂くというエレガントなスタイルもオススメと、ムーンシャイナーの関根さん。なんと大人っぽく贅沢な楽しみ方!その他にマリエンホーフのリケールをカクテルでいただくなら……と、関根氏にお願いし、作っていただいたのがこちらの2品。

rosen_003 Applause (アプローズ)
ジン/ブルー・キュラソー/ライム/マリエンホーフ ローゼン・リケール
シェークして冷えたカクテルグラスに注ぎ入れる。
ライムの爽やかな風味とジンの仄かな苦味が清々しい一杯。余韻にふわりと香るバラのエレガントな香りが印象的。青いバラをイメージ。
sakura_003 桜香 (おうか)
テキーラ/コアントロー/マリエンホーフ サクラリケール/かぼす/グレナデンシロップ/桜の塩漬け/金粉
シェークして桜塩でスノースタイルにしたカクテルグラスに注ぎ、桜の塩漬けをグラスに落とし、最後に金粉をふりかける。グラスにきらきらと縁取られているお塩は、実は桜塩。喉を通る時には、するりとマリエンホーフの桜リケールの香りが広がります。
華やかなこちらの写真では少し見えにくいのですが、華やかさを演出する金箔ほんの少し散りばめられています。春の訪れを祝って乾杯!
プリンセスボトルと呼ばれるハンドメイドの瓶は、工芸品としても美しいお品。ですから「ボトルが好きなのよ~。」というファンの方も多いと伺います。シンプルでするりと細面の瓶に、木の丸型のコルクが優しさを醸し出していてとても素敵なデザインなのですが、実はこの定番の他にアートボトルというものが存在するのです。下記にいくつかご紹介しますが、そのどれもがリキュールの色味と相まって、独特の世界観を醸しています。
「マリエンホーフの素晴らしいところは、商業主義に走らず造り手の真摯な姿勢やぼくとつとも言える生真面目さが産み出すクオリティの高さ。日本で販売するにあたって、その見た目や形状の可愛らしさだけでなく、造り手の魂が伝わるような広がり方をして欲しい……。」そんな中尾氏のお話に胸を打たれました。
偶然にもボナクイユでは、マリエンホーフ社のリケールを使って、お菓子作りをしている造り手さんの「あとあとかとか。」さんのご紹介もさせていただいていて、モノづくりに真摯な人たちって繋がっているなぁ……!と感動しました。そしてこのご縁を、もっと大きな意味のある円にしてゆかなければなぁ、少しでもそのお役に立てたらいいなぁ~と心の底から込み上がってくる気持ちを忘れないように、しないとですよね。
まずはマリエンホーフさんとのご縁を結んで頂いたBar Moonshinerのマスターバーテンダー・関根氏と、お話を聞かせてくださった中尾氏に感謝です。ありがとうございました!

TEXT By n.okumura
PAGE DESIGN By y.yoshida
SPECIAL THANKS to : 目白田中屋
Published: March 15, 2012
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