こんなイベントに潜入しちゃいました!

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イル・プルー・弓田シェフ新刊「贈られるお菓子に真実の幸せを添えたい」出版プレス発表会
2012年11月30日、旧山手通りに面した代官山・イル・プルー・シュル・ラ・セーヌにて、弓田シェフの新刊「贈られるお菓子に真実の幸せを添えたい」の出版プレス発表会に参加させて頂きました。
食べることが専門である私ですが、弓田シェフのこれまでの功績や素晴らしさはもちろん存じており、その美味しさに対する確固としたお考え、そしてその手から生み出される美しい味わいのお菓子たちは、(書籍を読んだり、お菓子を頂いたりという)実体験として今までも触れることがありましたが、直接にお話を聞くのはこれが初めてです。
書籍のタイトルである「贈られるお菓子に真実の幸せを添えたい」の、その書籍に込められた想いを語る、弓田シェフのお言葉を聞き逃さぬように、しっかりと耳を傾けようと思います
まずは弓田シェフの「出版」に関するお考えからはじまり、ご自身のご経歴の中からどのようにして今この書籍を出版するに至ったかをお話くださったのですが、まず驚かされるのは、淀みなくそしてロジカルにお話を進めてゆかれるご様子。これは熟考を重ねた上で導き出した明確な「解」をお持ちでいらっしゃることに他ならず、我々に語りかける言葉ひとつひとつに重みを感じたのが印象的でした。感覚的なだけでなく論理的に、そしてわかりやすくご説明くださる弓田シェフに師範なさった方は幸せだろうなとも思った瞬間でもあります。
最良にして最高の選択であること。そして本で伝えきれることの限界を超える書籍を創ることに挑戦しています。
イル・プルー・シュル・ラ・セーヌのお菓子がどうしてこんなに美味しいか?それには理由があるのだと弓田シェフはおっしゃいます。シェフのお言葉の中から端的に表す言葉を一つ選ぶとしたら、それは「執念」ゆえであるということになるかと思うのですが、私なりにそれを解釈するならば「真っ当な美味しさを追求する情熱を持つこと、そして持ち続けること」と理解しました。
まず1つめに、フランス菓子を始めとする西洋菓子を日本で作るには、まず材料のもつ個性の違いを克服することが肝要であり、そのこと無くして同じような美味しさを具現化することが難しい。その根源的で単純な問題を、教える立場ですら着眼するものは多くないのが日本の製菓における現状であると。
弓田シェフはフランスでの修行時代に食べた素材の美味しさを、日本で手に入る食材で再現することに心血を注ぎ、15年の歳月を掛け、「素材の違いを克服」する方法を体系化した方でもあります。
いちごを例に話してくださいましたがフランスのイチゴと日本のイチゴは、味覚において大きな差があるため、まずフランスのイチゴを食べた時に「心に浮かぶ感覚」「味の表情の違い」を思い起こせる限りつぶさに書き起こし、「イチゴのイメージ」について言葉による集積を行ったそう。このノート2冊分に及ぶ膨大なイチゴを表すイメージの中から、自分が理想とする味わいに近づけるためにはどうすればよいか?を繰り返し実践して来られたそうです。
もちろん素材を克服するために必要な技術もこれに含まれ、「どんな作業をすれば、この素材がどのような味に変化するか」を実践し、結果として表れるの味覚の表情の変化を観察し、それぞれの結びつきを経験として会得、そのプロセスでご自身の技術を高めてこられたと仰っておられました。
弓田シェフの著書、一作目「パティスリーフランセーズ そのイマジナスィオン」は、現在活躍するパティシエたちのバイブルと呼ばれ、1985年初版から今もって語り継がれるプロ必携の一冊。
新刊「贈られるお菓子に真実の幸せを添えたい」においても、礎となるこの「素材の違いの克服」の理論が散りばめられたものなのです。
素材への探究心が、食材の輸入事業をはじめる端緒に
上述のように、素材の克服に対して心血を注ぎ作り出すお菓子は確かに美味しい物として誇りをもっているものであったけれど、ふとある日、作り手である弓田シェフの真摯な姿勢が、本来楽しく有るべきである「お菓子を頂く」という行為に対し、緊張を伴わせているのではと疑問に思われたことがあったそう。
その折に温かさと安堵感をもったお菓子、そして余分な緊張のないお菓子を志向したいと考え、素材自体が納得する味わいをもったものを使うことで、ゆったり・ふっくらとした味わいを実現することが出来るということにお気づきになられてからは、これぞと思う味わいを持つ素材を見つけることにも精魂を傾け、ひいては自社での輸入事業を開始するに至ったとお話くださいました。
個人的にはこのエピソードに大変驚かされたといいますか、ふと立ち止まった瞬間に冷静にご自身のことを分析することに目を向けること、その事実こそが、弓田シェフのお人柄であると感じました。ご自身を「執念深くしつこい」と表現されておられましたが、情熱をお持ちの一方で、どこか冷静で、素直な柔軟な感受性をお持ちの方だからこそ、今がおありなのでしょうね。
お菓子には精神性が宿り、その生き様が表れる
イル・プルー・シュル・ラ・セーヌのお菓子を食べると、ひとりでに涙が流れた、と、そんな感想を寄せてくれる方は多くいらっしゃると弓田シェフは教えて下さいました。このエピソードのように、お菓子は人間にとって特別な存在であり、その出来栄えにより五感が感動に包まれることがあります。
塩味が基本となる食事は、生物が生きてゆくため必須の栄養素であり、それはすなわちカラダが必要としているものであるからこそ、まずいと感じるものは少なない。
お菓子は言ってみれば、生きるために必要なものと言うよりも、心が感じる美味しさや楽しい時間を彩る一つの要素として存在する。だからこそ、そのお菓子自体がもつ物語性や、作り手の持つこだわりや粋がダイレクトに表れ、人の心に響くものとなるのです。と、弓田シェフのお話。
我々現代人は豊かな時代に生まれ、欲すれば手に入る便利な世の中に生きていながら、稀に鮮烈な印象を残す食事やお菓子に出会うのは、このような精神性に触れて心が共振するからなのかもしれませんね。
新刊「贈られるお菓子に真実の幸せを添えたい」
この新刊「贈られるお菓子に真実の幸せを添えたい」は、製菓学校であり人気パティスリーである、イル・プルー・シュル・ラ・セーヌを代表する珠玉の焼き菓子の全46品のレシピブックであり、さらに本の限界を超える挑戦がなされた書籍でもあります。
出来上がりの焼き菓子を捉えたアングルは、バリエーションがありますが、製作途中の挿絵となる写真は、全て弓田シェフご本人の視点から見た過程を記したものです。きちんと読み解き、正しく実践すれば、たとえ素人であろうとかなりの再現性を期待できるもの。
更に「混ぜ方・のし方」に特化したDVDがついています。
私も経験があるのですが、木べらの切り方一つ、生地ののし方一つで、味わいに大きな差が生まれることが、お菓子の科学です。
書籍の写真だけでなく、映像を用いて実体験的に覚えれば、飛躍的に腕前が上がるきっかけになるため、製菓制作に悩まれたおり、基本に立ち戻るための書としても心強い教則本となるはずです。
これから製菓を学ばれる方にも、ホビストにも、基本の一冊として、そしてお菓子を愛するすべての人の、お菓子のもつ精神思想を学ぶ書として、お手元にお持ちになられることを強くオススメしたい一冊です。※書籍は、全国有名書店をはじめイル・プルー・シュル・ラ・セーヌ直販および、アマゾンなどのネット書店からお買い求め頂けます。

試食をさせて頂いたお菓子たち

上段左:焼き菓子集合写真。焼き菓子はこうやって様々な種類が並ぶだけで黄金色のグラデーションが目に麗しいですよね
上段中央:イル・プルー・シュル・ラ・セーヌの顔、ダックワーズ。このダックワーズより美味しいダックワーズに出会ったことはないかも
上段左:チーズとアーモンドの塩味のクッキー。素朴ながら手が止まらぬ美味しさはワインなどのお酒のお供にもぴったり
下段左:シュトーレン。美味しくていてもたってもジッオシトーレンというダジャレも交えて。弓田シェフのお茶目な一面が見え隠れ
下段中央:あくの強いチョコレートと塩味のクッキー。仏ペック社のチョコレートと、スペインカタルーニャ地方のアーモンドの滋味深い美味しさ
下段右:ギャレットゥ・ノワ(黒糖とくるみのクッキー)は、黒糖の丸みある甘さと胡桃のナッツ感がたまりません。
  • IL PLEUT SUR LA SEINE( イル・プルー・シュル・ラ・セーヌ)
  • 〒150-0033東京都渋谷区猿楽町17-16 代官山フォーラム2F
  • 03-3476-5211
  • 11:30~19:30 ※定休日火曜日
  • http://www.ilpleut.co.jp
TEXT By n.okumura
Published: Dec 4, 2012