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山形ワインツーリズム ~ Vol.1 国産ワインの未来を担う造り手たち
2012年6月の初め頃だったでしょうか。
ボナクイユでもご紹介をさせて頂いている、お菓子とうつわのブランド「あとあとかとか。」を主宰する川村氏から1泊2日の旅のお誘いをいただきました。ワインというキーワード、「あとあとかとか。」さんがプランしていることに対する1ファンとしての興味、そして訪問したことのない山形という土地……。これは面白くないワケがないじゃないか……!二つ返事で「行きます」とお返事をして迎えたこの旅、あらゆる意味で想像を遥かに超えた楽しく美味しく、価値のあるモノになりました。

文章でその全てをお伝えできるとは到底思えないし、本当なら是非ご自身の目で肌で舌で確かめて頂きたい。その端緒を開くきっかけになれたら嬉しく思います。
まずはめぐったワイナリー3軒のご紹介から!

写真をクリックすると拡大表示され、更にその画像をクリックすると前後の写真を拡大のまま移動可能です。写真だけを観ても面白いと思いますYO!

■1軒目:東北最古のワイナリー<酒井ワイナリー>才覚溢れる5代目の挑戦は続く
酒井ワイナリー
住所:  山形県南陽市赤湯980 GoogleMap
電話:  0238-43-2043
HP:   http://www.sakai-winery.jp/

温泉地として有名な山形県赤湯地方。明治25年、赤湯町長をしていた酒井弥惣氏が名子山・十分一山で葡萄栽培を開始したことにさかのぼり、今年で120週年を迎えるワイナリー。葡萄栽培から醸造まで一貫生産しており、伝統を守りながら一層の地域復興を目指し、弛まぬ努力と革新を続けるこのワイナリーには、栽培にも醸造にもブレのない哲学が存在します。

農薬や化学肥料に頼らず、自然の自助機能をできる限り生かした栽培環境の中、土地の特性・特徴を引き出す手法を用いて葡萄を栽培。南西向きのなだらかな斜面を利用した<狸沢>は日陰の出来ない葡萄栽培に適した場所、谷状の傾斜地に這うように存在する<沢>は粘土質の土壌ながら急傾斜であることから水はけの良い立地。他にも数カ所、特性の異なる畑を所有。

雑草すらも生き生きと生い茂り、雑草を食む羊が放牧されるワイン畑。力強い生命力を感じるこの畑の中では、生物も動物もみな大自然の法則の中に生き、恩恵を預かる身であることを思い出させてくれます。

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西南向きのなだらかな丘陵を利用した畑<狸沢>。垣根は1.8M棚の幅は1.5M間隔で栽培。
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急傾斜地にある畑<沢>あまりの傾斜で上からだと畑が見えないくらい。羊を放牧し雑草を食べさせることで、除草剤を使わずにぶどう栽培を試み。今後はワイン造りと羊から得られる収穫物(チーズや肉など)の展開も含めて検討中。

「羊の反芻をイメージして作った」細いチューブを通過するようにして発酵を進めてゆく機材(欧米の医療機器としても利用されているララヴィーニのモノポンプを採用)を用いており、そこにも自然回帰的な醸造哲学の一端を垣間見ることができます。また創業当時から変わらずノンフィルター方式で製造しているワインは、適度なおりと濁りを含み、風味豊かなお味があるのも特徴。

シグニチャ製品であるバーダップワインの『鳥上坂』や『名子山』の他に、栽培品種を複数種・様々なビンテージをブレンドして造る『まぜこぜワイン』などワイナリーの個性や赤湯の風土の特徴を打ち出したワインもあります。

この日試飲させて頂いた2010年ヴィンテージの『名子山』も、厚みがあるというか香りが力強く、日本ワインの可能性が見えるようなスケール感のある一本。ぶどうはソーヴィニヨン70%・メルロ30%、ソーヴィニヨンの香りの良さ、メルローのまろやかな味わいが相まって素晴らしかったです。

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ワイン工場も見学させていただきました。ステンレス製の保存容器はイタリア製のもの。貯蔵庫はワイナリー創設当時から使われている低温管理された蔵で、土の壁が湿度を適度に保つ働きをしています。
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試飲させて頂いたワインはこちら「バーダップ樽熟成 鳥上坂名子山2010」。酒井ワイナリーさんでも人気のお品。ぶどう原液もまた美味しそう!

■2軒目:女性らしい柔らかな感性で造る、至宝のワイナリー<タケダワイナリー>
タケダワイナリー
住所:  山形県上山市四ツ谷2丁目6-1 GoogleMap
電話:  023-672-0040
HP:   http://www.takeda-wine.co.jp/

蔵王スターを始め、国産ワインの筆頭株として知られる蔵元として有名な<タケダワイナリー>も、創業100年に迫る歴史を持つ老舗。

標高200M前後付近に位置する平地と斜面の畑、約15ヘクタールで葡萄を栽培。その栽培手法は酒井ワイナリーと同様、より自然に近い環境で育てること・農薬や殺虫剤不使用がモットーですが、立地特性から対応すべき問題は少し異なる事もあるようで、目下ムクドリや野生の動物達から作物を守ることが大命題となっているとか。

これは里山の減少で動物たちが山を降りて来てしまうためで、過去にはあまりなかったらしく、畑の中の生態系を守るのみならず、本来はもっと俯瞰的な視点で「生態系を保全する」ことが必要になるのだなぁ……と考えさせられます。

栽培品種はマスカットベリーAの古木を始めとして、デラウェア、シャルドネ、メルロー、カベルネと多岐に渡り、実験的に栽培しているヴィオニエなどもあるそう。

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タケダワイナリーのマークと大きく「蔵王スター」の名前があるこちらの舎は直売店。直売店近くのぶどう畑。ムクドリ対策のためにネットが貼られたり、釣り糸が張り巡らされていたりします。
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樹齢70年になるマスカットベリーA の古木に実を成らせた美しい様子は、まるで葡萄の色の絨毯。皆その眺めに見惚れていました。そして生食用かと負うほどふくふくと粒ぞろいで驚き!
15ヘクタール分の葡萄を収穫し醸造、製品化するプロセスをなんと3~4名でこなす秋から降雪時期まではワイナリーにとっても目が回るほど忙しい時期。少数精鋭体制でワインを生産するため、葡萄の枝と実をデキュパージュ(取り分け)のための機械や、かなり大きい圧搾機が導入されていたり、製造効率化のための機材が整っているところも目を見張ります。これらの機械たちは、タケダワイナリーの継承者であり醸造家の岸平典子氏の理論と技術、柔らかな感性によって造りだされる繊細で女性的なワインのクオリティを支える重要な役割を担っているようです。

左は圧搾機で全長はセダンの車よりも大きく、全高は2.5Mくらいあるのではないでしょうか。この機械で圧搾された果汁をホースと高低差を利用して、圧搾機より低い位置に設置された貯蔵用タンクに送り込みます。

地下の貯蔵庫に眠る樽入りのワイン。シリアルナンバーが一つ一つ刻印されて管理されています。樽は欧米から古い樽を取り寄せることが多いそう。右写真は瓶詰め用のスペースだったと思いますが、この写真の左手にも熟成容器が見えます。
この日は4種類の試飲をさせて戴くという、なんとも光栄な場にい合わせてしまったのですが、どのワインも果てしなく美味しい……!僭越ながら好みを言わせて頂けるならば、『シャトータケダ キュベ034』と『サン・スフル』がとても好きでした。(単に喉が乾きすぎていた為、白が沁みるように美味しかったという理由かも……。笑)
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エチケットがどれも大変美しいですよね。それぞれのヴィンテージで違う表情を見せますが、どのお品ももう少し時間を置くとものすごく化けるであろうポテンシャルがあるものばかり。是非購入なさった方は、飲み頃の時期までゆっくりと熟成をしてくださいね。
とても不思議な事ですが、試飲したいずれのワインも、典子氏の朗らかで柔和なお人柄が反映されていて、その点に置いても大変稀有な存在といえると思います。HPに掲載されている<タケダワイナリー歴史>に目を通していただけると、ワインの持つ柔らかな感性の理由が少しわかると思いますよ。

■3軒目:日本酒醸造にオリジンを持つ醸造家の探究心が生む美しいワイン<月山ワイン山ぶどう研究所>
月山ワイン山ぶどう研究所
住所:  山形県鶴岡市越中山字名平3-1 GoogleMap
電話:  0235-53-2789
HP:   http://www.gassan-wine.com/

今回訪問した蔵元の中では唯一、醸造だけを行なっている<月山ワイン>。

標高500Mの高地に位置し、清らかな水と空気を湛え、霊峰としても名高い月山特有の気候特性を生かした醸造を行う庄内地方きってのワイナリー。契約生産農家の数は地元鶴岡を始め100軒を超え、葡萄の国内比率100%で生産しています。ワイン製造に特化したワイナリーだからこそ、醸造家に与えられる権限や責任も大きいのが特徴です。

醸造を担当する阿部豊和氏は、現在ワイナリーの2代目の醸造責任者として活躍。月山ワインに入社する前には清酒メーカーに勤務しており、専門性の高い知識・日本の風土を生かした醸造技術にも造詣が深い方。

立地設備的な特徴という意味では、旧国道跡地であるトンネルをワインの貯蔵庫として活用しているというユニークさがあり、吊り橋を渡ってセラーに向かうその足元には梵字川が流れ風光明媚な眺めを形成していて、ドライブの寄り道するスポットとしても愛されている場所です。

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吊り橋を渡って貯蔵庫に向かいます。空気がキレイで気持ち良い。吊り橋を渡る途中で見える、隣の橋。美しい風景です。自然の貯蔵庫の内部。適度な湿度をたたえた天然の倉庫は年間通して15度前後の温度を保つことが出来る、ワインには最適な場所。個人でセラーとして借りる(有料)こともできるそうですよ。
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ワインの貯蔵タンク。ものすごく大きなサイズで、大手酒造メーカーの方も見学にいらして驚かれたとか。このサイズのものが沢山並んでいますが、現在機材の入れ替えも行なっているところだそう。右の写真は、セラーの入り口。旧国道のトンネルを利用したセラーは珍しいですよね。

月山ワイン発祥のきっかけとなった、在来種「山ぶどう」

『山ぶどう酒』は滋養・強壮、健康増進に効能があると言われていた事に農協が着目し、約40年前に本格的に山ぶどうを使ったワインの研究開発を開始、1979年からワインを製造し始めました。現在では在来種の山ぶどうを始め、山ぶどうとカベルネ・ソーヴィニヨンを交配した品種・ヤマソービニオンや甲州、セイヴェルを使いバラエティに富んだワインを作り出しています。

糖度が高く・適度な酸味をもつ葡萄を採用して作るワインは、品質に優れていることはもとより、コストパフォーマンスの高さも特徴。トンネルの貯蔵庫は年間を通して適度な湿度と温度を安定的に保つことが出来、ワインセラーとして好適な場所であることが、月山ワインの美味しさの秘訣のひとつと言えます。

この日3種類のワインを試飲させていただきましたが、そのどれもがまだまだ若いヴィンテージなのに複雑味があり、負けない個性を持つものばかり。特にロゼが美味しく感じたのですが、酵母に由来するふんわりとした香りと甘みが魅力的な一本で、醸造家の情熱がひしひしと伝わってきます。

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どのエチケットもシンプルでわかりやすいですね。イラストがオシャレです。山ぶどうとカベルネ・ソーヴィニヨンを交配して作ったワインは深みのあるしっかりしたお味。セイヴェルという交配品種も一般的ではあるそうですが、私は初めていただきました。この日はロゼの酵母臭や甘みが大変美味しく感じました。美しい色味が華やかでいいですよね。

ぶどうがくれる恵みを大事に育む、職人のワインが山形にある!

ワインづくりの一つ一つの工程に真剣に向き合い、そして丁寧な仕事をしていて感銘を受ける話ばかり。ぼや~っと旅行に来た私ですが、本当に気持ちに火がつくような「職人魂」を伺うにつれ、興奮が高まってゆくのでありました。ちなみ上述の内容は、赤湯に到着した10時半から18時半くらいまでの間の出来事。(都合お蕎麦ランチを端折って書きましたが)

この後に続くイタリアンの名店「アル・ケッチァーノ」でのお食事という、メインイベントに向けて暖気が完全に出来上がった思いです!

 

◎その1: 山形ワインツーリズム ~ Vol.1 国産ワインの未来を担う造り手たち 
◎その2: 山形ワインツーリズム ~ Vol.2 食の宝庫<庄内>の農産業のあり方から感じたもの
 

 

TEXT By n.okumura
SPECIAL THANKS TO あとあとかとか。
Published: Sep 12, 2012