世界の“美緑”を探せ

ホーム » 美味談 » 世界の“美緑”を探せ » 米(こめ)

お酒の由来は古く、有史以前より作られ消費されていたようです。宗教的背景や文化的背景によってその扱いは様々ですが、時に神聖なものの象徴として、時に悪徳として遠ざけられる存在であるのは、お酒が与える影響……それは享楽であり、影響の大きさからにほかなりません。現代に生きる私達にとって、お酒は日々を楽しく豊かにしてくれるものとして欠くことの出来ない存在。 だからこそ、単純に美味しく楽しみたい!時にトリビア的に「ほぉ!」と膝打つ小ネタや、時にお酒周辺ペダンチックに楽しめるお話を、赤坂のオーセンティック・バー「Bar Moonshiner」のマスター・バーテンダーである関根真樹氏を始め、お酒のプロフェッショナルたちにお話を伺いながらに連載してゆきます。

“美禄”とは:中国「漢書」の経済にまつわる記載項目『食貨志』の中で、“酒は天の美禄”との記載があったことから、お酒の美称として定着したことに由来します。

Bar Moonshiner (赤坂)
マスター・バーテンダー
関根真樹氏
麻布台「杉もと」店主・杉本修一氏日本人の主食であるお米。
世界の美禄を探せのコーナーで扱う穀物由来のお酒・第一号でもありますが、お米由来のお酒というのは、その奥深さと日本の歴史や風土に関連する部分も多く、実はなかなか攻め入るのが難しいテーマであることは確かです。
今回はナビゲーターである赤坂Bar Moonshiner店主の関根氏と共に、日本酒を愛する和の職人、麻布台「杉もと」店主・杉本修一氏に話を伺いにまいりました。
美味しい日本酒の秘密に迫れるかな……。今回ばかりは少々心配です……。
ざっくりと分けるとこんな感じ。蒸留酒は文字通り蒸留という過程を経て純化が進行している分、品質や味に関する振り幅が狭い。一方醸造酒については製法はもとより、原材料や産地など味に変化を齎す様々な要因があることと、製造以後の保存管理にも大きく品質が左右される繊細さを持ち合わせたお酒であるため、品質の安定化が大きな要素となるし、蒸留酒に比べ多様性が出やすいという特長も。…と、こんなふうに分けられるわけですが(もちろん詳細をもっと分類すると、素材もいろいろありますし、混成酒という種類のお酒もございます)、わかりやすく語るのが難しい種類のお酒である……と思うわけです。
麻布台「杉もと」日本酒は古来より日本に伝わる伝統のお酒ですが、アジアを始めお米は様々な土地で栽培・食用消費がされている穀物の1つ。
例えば馴染みのあるもので言えば韓国の「マッコリ(マッコルリ)」。最近ではテレビCMのプロモーションなどもあり、随分日本でも人気のあるお酒ですがこちらもお米由来なんですよ。この「マッコリ」というお酒、日本で言うトコロのどぶろく(にごり酒)のように原材料を濾しておらず、かつ酵母が活きた状態のお酒。日本酒(清酒)は基本的にその過程で「火入れ」という作業を行うことで、酵母を不活性化し、品質の安定化をはかっているため(多くの場合は2回「火入れ」の作業が行われるそうですが、日本酒の中でも生酒などは火入れをしていないものの事をさすそうです)その中に酵母が活きているかどうかという違いは大きいかもしれませんね、と、杉本さん談。
「火入れ」とはビールで言う「熱処理(パスチャライゼーション)」と同じ工程というわけですね、と関根さん。生ビール(ドラフトビール)は熱処理が加えられておらず、フレッシュな味わいがあるかわりに、作ってから消費するまでのスピードが、味的品質の重要な要素に。一方熱処理を加えたビールは品質管理の観点から扱いやすく、かつ均一な品質を広くデリバーするための工法なんですよとも。なるほど、勉強になります!あとは泡盛や米由来の焼酎などの蒸留酒も存在しますし、中国のお酒として有名な紹興酒は糯米(もちごめ)が由来のお酒です。こうして考えると、お米という原料からも様々なお酒が生まれているということが判りますね。
麻布台「杉もと」店主・杉本修一氏日本酒の原料は主に米と麹・水であり、これらが日本酒の味を作り出す最も大きな要素となるのは、想像のつくことですよね。
もう少し仔細に区分すると、まず原料となる酒米には「麹米(麹菌を育て、日本酒の素になるもの)」「酒母米(発酵の主役となる酵母を増殖させていく工程)」「掛け米(麹を作る際に掛け合わせる違う種類のお米)」があるそうで、日本酒の造り手さんによって掛け米を使う使わないなどが違ってくるそうです。
少し前までは山田錦という品種が日本酒を作るためのお米として定番だったそうですが、最近では違う種類のお米が酒造りに使われることも多くなってきたとのこと。チャレンジ精神が一層レベルの高い日本酒を創りだすのですね。
次に水。産地によって違いが出ることは知られています。ただ文明や物流の発達によって、良い水を取り寄せて日本酒造りが出来るため、酒蔵のある地域だけでは判断しかねる部分もありますが、使用する水によって、日本酒の個性に様々なバリエーションをもたらしていることは間違い無いはず。
これは個人の所感ではありますが……との注釈付きで、新潟のお酒は水のようなさらりとした特長を持ったものが多いような気がするんです、と杉本さん。新潟は有名な米どころ。日本酒を作る工程で使われる水以外に、お米の育成の過程で使われる水がその味の個性を形作っているのかもしれません。

●山卸しと山廃、そして冷卸しについて
個人的に気になっている言葉として「山廃仕込」という言葉があるのですが、正直これって一体何をさすのか分からないです……と、杉本さんに疑問をぶつけてみました。

山廃を理解するためには、まず酒母造りの製法として伝統的な生酛(きもと)造りと山卸しの工程を理解する必要があるんですよ、と杉本さん。生酛系とは酒質を作る過程で時間をかけて酒母を育てる伝統的な製法。その中の作業で麹米と蒸した酒米を、櫂(かい)でを摺りつぶす作業のことを「山卸し」と呼ぶそうです。

産業革命以後、精米の技術が進化してきて「山卸し」の工程が無くとも、酒母が均一なクオリティで育つ素地ができたため、この「山卸し」という作業工程を廃したことを、従来の製法に対比して「山卸廃止酛=山廃(仕込み)」というようになったそう。
その製法の違いが味に影響するのでしょうか?と伺ったところ、品質については特段影響しませんが、味の個性を形成する上で山廃独特の味というのはありますよ。とのこと。

仕込みの手順で言えば「冷卸し」という製法があるのをご存知ですか?と問われたのですが、えっと……あのすいません、存じません、教えてください、と私。
冬にしぼられた新酒を劣化しないよう春先に火入れをし、ひと夏を超して気温が落ち着いた秋ごろに2度目の火入れをせずに出すものを「冷卸し」と言うんですよ、と、ここでも1つナゾが解明。なるほど…。

冷や卸しに関する解説は、「杉もと日記」でも紹介されていますので、幾つか記事をピックアップしますね。読むと面白いです。
『秋田県の日本酒 雪の茅舎(ゆきのぼうしゃ)山廃純米ひやおろし』
『秋田県の日本酒 鳥海山(ちょうかいさん)純米吟醸酒ひやおろし』
『秋田県の日本酒 春霞(はるがすみ)特別純米ひやおろし』

 

●近代的な仕込み技術をもつ「獺祭」
「冷卸し」とは対照的なのが、最近大変人気の日本酒「獺祭」。こちら山口のお酒です。
「獺祭」は他の酒蔵と違い、蔵の温度をコントロールし、年中仕込みを行なっている酒蔵です。ですので通年作りたてのフレッシュなお酒が市場に出回っている稀有な酒蔵としても有名なんだそうです。

そしてこの「獺祭」は麻布台 杉もとでも定番で出されているお酒の1つ。店主の杉本さんは山口の蔵元まで足を運び、「獺祭」の良さを世に知らしめてきた人のお一人でもあるんですよ。是非、お店にお出向きの際は、杉本さんからお話を伺ってみてくださいね。

山口県の日本酒 獺祭(だっさい)純米大吟醸 遠心分離 磨き二割三分
山口県の日本酒 獺祭 磨き二割三分 発泡にごり酒
獺祭(だっさい)の酒蔵、旭酒造さんに行って来ました。(一日目)

嗚呼、日本酒って奥深い!
……とは言え、私、美味しいお食事につられてカナリ日本酒が回ってきておりまして……。これ以上覚えている事が困難な状態になりつつありますので、頂きましたお食事とお酒のご紹介を。(続きは2回目の記事で……)

▼ 先付け
鯛の煮凝りと生海苔の豆乳ソース 鯛の煮凝りと生海苔の豆乳ソース
鯛がうっすらと纏う煮凝りの食感がたまらない逸品。
生海苔の磯の香りが鯛を引き立てていたことと、生のりの色味が桜色に彩って美しいお皿です。
▼ 先付けと合わせていただいた日本酒はこちら
黒龍酒造「仁左衛門」「石田屋」 黒龍酒造「二左衛門」「石田屋」(福井)
こちらのお酒、実は大変に貴重なお酒で私のような者が頂くのは勿体無いお品。皇室献上品としても名を馳せる黒龍酒造の「二左衛門」「石田屋」。市場に出回る数は大変に少ないお品です。米の品種は双方山田錦100%、精米度も35%で同じ。いずれも長期熟成のタイプですが、造り方でこれだけ個性が異なるものなのですね、と、いうコントラストが美しい2品。双方の個性をまずは「鼻」で感じていただきたいとのことで、違うタイプのグラスで頂きました。「石田屋」はより円やかな香りの凝縮感を、「仁左衛門」は新鮮さが華やかで、甘みのある味が印象的。
▼ お造り
お造り5品 お造り5品
右から細魚(カンヌキ)、平鱸(ひらすずき)、本鮪背とろ(赤身と背とろの部分)、槍烏賊、真鯵の葱味噌のせどれも大変美味しかったのですが、サヨリの美味しさが素晴らしかった。まるで昆布で〆たような味。そして平鱸の身はもちろんのこと皮と白子に舌鼓。関根さんは基本<洋>の文化の方なので、生のお魚の美味しさに感心しきり!二人で旨い旨いと言いながら、お魚ってすごいねーーーと感心してしまいました。。
▼ お造りと合わせていただいた日本酒はこちら
旭酒造「獺祭 純米大吟醸 磨き二割三分」加藤吉平商店「梵 極秘造大吟醸」 旭酒造「獺祭 純米大吟醸 磨き二割三分」(山口県)
加藤吉平商店「梵 極秘造大吟醸」(福井県)
こちらの日本酒も大変貴重なお品でかつ人気のあるお酒です。
大吟醸の中でも、磨きの割合が高く、清らかな味わいの中にも、ラインのしっかりとした米らしい味わいを醸す2品。磨き5割以上であれば、大吟醸と分類されるそうですが、こちらの獺祭は文字通り二割三分(23%)まで磨きこんだもの。クリアでありながらふくよかな味わいがあり、人気の理由も頷けます。
一方の梵は甘く優しい上品な吟醸香が印象的で、女性的な日本酒というイメージを持ちました。獺祭をボルドー型のグラスで、梵をブルゴーニュ型のグラスで出して頂けたのも納得の味わいです。

皆さんの中で獺祭の二割三分まで磨かれた米の残りの七割七分はどこにいくのか気になった方もいらっしゃるかもしれません。これらは米ぬかとなり、肥料やおせんべいの材料、時には道路の白線にもなることがあるそうです。

獺祭DassaiSake Facebookより)

▼ お椀
和風・牡蠣のビスク 和風・牡蠣のビスク
牡蠣の風味をぎゅっと豆乳の中に閉じ込めた和食のビスク。
写真では判りませんが、炭焼きにした牡蠣と自家製のお豆腐も入っていて食感のリズムも面白い逸品でした。旨みがじわりと胃に染み渡って心底ほっとさせてくれる一品。
▼ お椀と合わせていただいた日本酒はこちら
天寿酒造「純米大吟醸「天寿」六花酒造「大吟醸 じょっぱり」 天寿酒造「純米大吟醸「天寿」」(秋田県)
六花酒造「大吟醸 じょっぱり」(青森県)
天寿の大吟醸は、ふんわりと香るお米由来の香りがとても印象的でした。
こちらの酒造メーカーさんでは「鳥海山」も美味しいお酒として有名ですね!じょっぱりは淡麗ってこういう味のことを言うのだなぁ~というすっきり感の強い、飽きの来ない味の日本酒。
名前の「じょっぱり」とは、津軽弁で意地っ張りという意味だとか。
▼ 焼き物
金目鯛の鮟肝ソース、おから添え 金目鯛の鮟肝ソース、おから添え
焼き魚が好きな私としては、たまらない一品です。
思わず白いご飯を……と言ってしまいたくなるところを我慢。あぶらの乗った金目鯛に濃厚なあん肝……。
添えられているおからも絶品で、こんな味つけが自分でもできるようになりたい。
▼ おまけ
黒龍酒造「龍」「八十八号」 黒龍酒造「龍」「八十八号」(福井)
黒龍酒造のなかでも、比較的リーズナブルに味わえるお酒「龍(りゅう)大吟醸」です。 その他、「しずく 大吟醸」や季節限定の「火いら寿(ひいらず)純米吟醸 生酒」などがあります。
こちらもラベルがとてもキレイで見応えもありますが、お味もかなりの好みでした!
神亀酒造「ひやおろし」 神亀酒造「ひやおろし」(埼玉)
先に伺った冷やおろしの中でも、杉もとで定番としてお出ししている銘柄の1つ。実は杉本さんご自身が、日本酒にハマるきっかけになった一本だそうです。この日はこちらを頂くことが出来なかったので、次回の宿題と相成りました。笑楽しみです。
朝日酒造「吟醸原酒 久保田」 朝日酒造「吟醸原酒 久保田」(新潟)
2010年の限定品。二十五周年記念に発売された日本酒です。
よい造りの日本酒は熟成してもへたらないため、お店で特別に低温貯蔵して(熟成させて)お出ししようという試み。
これから数年後に味わう頃には、どんなに美味しいお酒になっていることでしょうか。楽しみですね。
いかがでしょうか。
そして大変初歩的な質問ではありますが、日本酒の事をよくわからない私のようなタイプの人が、日本酒を美味しく頂くコツは?という質問をぶつけてみました。
「まず初めに美味しいと思った日本酒がどんなタイプのものだったのか?を知っておくことは大事かもしれませんね。すっきりしたものなのか、しっかりしたものなのか、はたまた飲みやすいものだったのか。自分が好きだなと思う味の基軸になるものを持っておくことが近道になるんじゃないでしょうか。そうすればそこから好みの味わいの銘柄を見つけることが出来るようになると思いますよ。後はその時々の気分を我々に伝えていただければ、オススメのものを提案させていただけますし、『これ美味しい!』と言ってもらえると我々も嬉しい。そうやって一緒に美味しいお酒を見つけていくって、食事を楽しくする要素の1つにもなりますし。」
と杉本さん。和食の分野では職人さんがソムリエのような、道先案内人を兼ねているということなんですね。ではお料理とお酒の相性という部分では何か定説となるようなものはあるのでしょうか?
「この料理とこの日本酒は合わない、と言うことはないんです。例えばお出しする食事の味に負けない個性や味わいを持った日本酒を出す場合もありますし、逆に味の濃いいものにすっきり感を持たせる日本酒を合わせることもありますから。ただ日本酒単体で愉しめるもの、食事と一緒に頂いた時に美味しく感じるものというのはあるかもしれません。」
なるほどぉ!日本酒はお米が由来のものだから、なんにでもするりと寄り添ってしまうお酒なんですね。日本酒は奥が深いというか、懐が深いお酒だということに気が付きました。
今回の体験を通して、日本酒をもっと飲みたいと思いましたし、日本人として海外の方に説明できる程度の知識をつけておきたいとも思いました。道案内役となる日本酒のプロフェッショナルにお話を聞くこと、そして一緒に頂く美味しい美味しいお食事が欠かせません!
今回は私の不勉強が過ぎたので、美味しかったレポート的に散漫な内容になっていますが、次回は杉本師匠にご指南いただき、もっとクオリティの高い内容にしたいと思っております。乞うご期待……♡
azabu_sugimoto_001
杉本さん、ありがとうございます!今後共ご指導宜しくお願いいたします。
TEXT By n.okumura
PAGE DESIGN By y.yoshida
SPECIAL THANKS to : Monsieur.Sekine (Bar moonshiner)
  • 杉もと (麻布台) 
  • 〒107-0052 東京都港区麻布台3-3-19
  • 03-3586-1455
  • 月曜~土曜 OPEN 18:00~23:30 (last order 22:30) 日曜 祝日 定休
  • http://azabudai-sugimoto.jp/