世界の“美緑”を探せ

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お酒の由来は古く、有史以前より作られ消費されていたようです。宗教的背景や文化的背景によってその扱いは様々ですが、時に神聖なものの象徴として、時に悪徳として遠ざけられる存在であるのは、お酒が与える影響……それは享楽であり、影響の大きさからにほかなりません。現代に生きる私達にとって、お酒は日々を楽しく豊かにしてくれるものとして欠くことの出来ない存在。 だからこそ、単純に美味しく楽しみたい!時にトリビア的に「ほぉ!」と膝打つ小ネタや、時にお酒周辺ペダンチックに楽しめるお話を、赤坂のオーセンティック・バー「Bar Moonshiner」のマスター・バーテンダーである関根真樹氏を始め、お酒のプロフェッショナルたちにお話を伺いながらに連載してゆきます。

“美禄”とは:中国「漢書」の経済にまつわる記載項目『食貨志』の中で、“酒は天の美禄”との記載があったことから、お酒の美称として定着したことに由来します。

Bar Moonshiner (赤坂)
マスター・バーテンダー
関根真樹氏
竜舌蘭(リュウゼツラン)というと耳慣れない名前だな……と思う方もいらっしゃるかもしれません。
実はテキーラは、この竜舌蘭と呼ばれるサボテンの一種を用いて作られたお酒なんですよ。テキーラの発祥はメキシコ。紀元前2万年の昔から人が文明を築き、アステカ文明が勃興した土地としても知られています。人のあるところに歴史あり、歴史あるところに快楽あり。つまりお酒もあるわけです!
さぁ、メキシコで生まれたお酒の話を紐解いてみましょう。
この竜舌蘭を原料とするお酒が「テキーラ」と呼ばれるようになったのは、メキシコのシェラ・マドレ山脈の北側に位置するハリスコ州・テキーラ村という土地の名前に由来するそう。
本来は「メスカル」という名の酒でしたが、アメリカ人が初めて飲んだ時にそのお酒の名前がわからず、樽のラベルで見つけた産地名「テキーラ」をこのお酒の名前と勘違いし、それが流通するようになったとか。
間違いから始まった呼び名かもしれませんが、メスカルよりも、テキーラのほうが呼びやすくていいような気がしませんか?
一説によると18世紀の半ば頃(スペインの統治時代)、メキシコの西北ハリスコ州、テキーラ村にほど近いシェラ・マドレ山脈アマチタリャの地で大きな山火事があり、一帯に生息していた竜舌蘭も燃えてしまったそうです。
山火事跡で、あたり一面に芳香が漂っていることを不思議に思った村人がその黒焦げになって転がっていた竜舌蘭を1つを押しつぶしてみると、チョコレート色の汁が滲み出してきた。それをそっと舐めてみたところ、とても上品な甘さが!なんと竜舌蘭(アガヴェ)の株が山火事の熱で砂糖に変わったのです。
メキシコでは先史の昔から、竜舌蘭の葉を切って絞った汁を調味料として使っていたそうですが、熱の効果で糖化が加速し美味しい液が取れることを発見したのは、こうした偶発的な出来事からだというのも面白いですよね。この竜舌蘭(アガヴェ)の茎の部分を蒸し焼きにして糖化を引き起こしてから抽出した液が、テキーラの原料。
スペイン人はこの汁を絞って発酵させ、蒸溜し、無色のスピリッツをつくりました。その後、蒸溜工場は良質のアガヴェを求めてテキーラ村に至ったという経緯があるそうです。
竜舌蘭にもいくつか種類があり、代表的なものとして<アガヴェ・アスール・テキラーナ>、<アガヴェ・アメリカーナ>、<アガヴェ・アトロビレンス>があります。
『テキーラ』と命名されるお酒は<アガヴェ・アスール・テキラーナ>が原料。それ以外のアガヴェで作られた蒸留酒は『Mezcal(メスカル)』と呼ばれます。テキーラもAOC(原産地呼称統制)みたいに、メキシコの工業規格NOMの規制で原料と製法、原産地が決められているんですよ、と関根氏。へぇ~、なんかゆるい国だと思っていたけどそうでもないんだね、メキシコさん!(笑)

ちなみにこの竜舌蘭は開花するのに長い年月がかかるそうで(実際に数十年かかるそうです)、センチュリープラントと英名が付けられていることからもそれが分かりますね。テキーラもメスカルも、原材料となるのは竜舌蘭(アガヴェ)の葉を落とした茎の部分。ロゼッタ葉を形成する竜舌蘭(アガヴェ)の葉の部分を切り落とすと、その茎は丸い形状をなしています。その形状がパイナップルに似ていることからPina(ピニャ。ピニャコラーダのピニャと同じ意味)と呼ばれ、50kgを超える物もあるとか。芳醇な糖液を湛えているからなのでしょうが、その大きさが女性一人分ほどもあるとは驚きです。

このピニャを蒸し焼きにして糖化を引き出してから、石臼で挽いて出た絞り汁を発酵させます。発酵した原液は3~5%のアルコールを含むドブロク(これをプルケといい、現地の方はこれに着色して飲んだりするらしいです。日本には輸入できないので現地にいかないとお目にかかれません。)が出来上がります。そしてその原液を蒸留してアルコール分を更に精製してゆくのです。
テキーラは2~3回蒸留を繰り返しますが、メスカルの場合蒸留は1回のみ。製品化されたメスカルでも時折アルコール度数が40度に達してない物があるのは、この精製過程によるところが大きいのでしょう。

なおテキーラにもウイスキーなどのように、熟成年数によってクラス分けがあります。青々しいフレッシュなテキーラもまたメキシコらしさを感じますが、熟成された物にはまろやかな味わいがあります。是非呑み比べてみてください。

 

竜舌蘭

竜舌蘭

竜舌蘭の茎部分、いわゆるピニャ

竜舌蘭の茎部分、いわゆるピニャ

プルケ

フレーバー違いのプルケ。イチゴ味とかオレンジ味とかでしょうか……。

テキーラのランク 定義
ブランコ
(Blanco/Silver)
製造されすぐに瓶詰めされたもので、テキーラの風味・特徴がはっきり現れる。
ゴールド
(Gold)
ブランコと熟成されたもの(レポサドもしくはアニェホ以降)をミックスさせたもの。(商標にあるゴールドとは異なる)
レポサド
(Reposado/Aged)
2ヶ月~1年未満樽で寝かせたもの。
アニェホ
(Añejo/Extra Aged)
2ヶ月~1年未満樽で寝かせたもの。
エクストラ・アニェホ
(Extra Añejo/Ultra Aged)
3年ほど寝かせたもの。価格も最も高く、生産しているハリスコ州では数十万円のものも見ることができる。
KAH KAH
こちらはパッケージ変わり種のテキーラ。
メキシコらしいといえばそのとおりのパッケージで、なかなかインパクトの強いパッケージ。名前の<KAH>は、古代マヤ語で「人生・生命」を意味することば。マヤ文明では骸骨には人間の死生観が宿っているのですね。
パトロン コーヒーリキュール パトロン コーヒーリキュール
テキーラの高級ブランドであるパトロン。普通のテキーラも美味しいのですが、実はこのコーヒーリキュールは絶品。
コーヒーの香りが活き活きとして、甘みでごまかしていない点が秀逸なポイント。
テキーラ好きな方だけじゃなく、コーヒー好きな人にもお勧めしたい一本です。
それはそうと、このラベルの蜂かわいいですよね。植物は蜂による受粉の媒介がなくてはならない存在だから、パトロンのブランドロゴとして掲げられているとか。なるほど!
ストレートにカットライム、塩、が一般的です。
口に入れる順番に決まりはありませんが、まずはライムをかじり、テキーラをグイっと、そして塩。と日本テキーラ協会では提唱しているそう。(日本テキーラ協会!初めて知りましたが、そのような協会があるんですね。)
お酒を頂く際にチェイサーはつきものですが、テキーラのに添えられるチェイサーがこれまた独特。
サングリータ・チェイサー(血のチェイサー)と言って、トマトジュースにオレンジ、レモン、タバスコ等を入れたもの。普通はお酒の味を愉しむためにリセットするためのニュートラルな味のものですが、テキーラ自体を引き立てる味が付いたものがチェイサーになっているのは面白いですよね。もう一方ではショットガン・スタイルで飲むのもポピュラーだそうですが、パブや居酒屋ならではのスタイル。
オーセンティックバーでは雰囲気やグラスの破損などの面で断られると思いますのでご注意を。
Margarita:マルガリータ Margarita:マルガリータ
テキーラを使ったのカクテルといえばこれ。
テキーラをベースにオレンジリキュール、フレッシュライムをシェークしグラスの淵に塩を付けたスノースタイルのカクテルです。このカクテルの由来は2つあります。
1949年にロサンゼルスのバーテンダー、ジャン・デュレッサーが考案。
1949年のUSAナショナル・カクテル・コンテストで3位に入選したことで広く知られるようになった。ジャン・デュレッサーの若き日の恋人マルガリータが、狩猟場で流れ弾にあたり亡くなったのを偲んでつけられたと言われている。
もう一つは、どんな酒も塩をなめながら飲むガールフレンドのために、1936年にメキシコのホテルの
バーテンダーが作り、ガールフレンドの名前をとって名付けた。前者を信じたいですね。笑
Ice breaker:アイスブレーカー Ice breaker:アイスブレーカー
Moonshiner的にオススメのカクテルはこちら。
テキーラをベースにオレンジリキュール、グレープフルーツジュース、グレナデンシロップをシェーク。
マルガリータを優しく爽やかにした感じですかね?ちなみにアイスブレーカーとは砕氷船の流氷を砕く部分のことですが、転じて『打ち解けあう』という意味合いもあるそうです。
仲良くなりたい人とバーに行き、頼んでみるのは如何?
さて、2011年も残すところあと半月となりました。
そんな師走ですが、赤坂Bar Moonshinerは10周年を迎えるそうです。おめでとうございます。
移り変わりの早い赤坂で10年続けるのは大変なこと。ご苦労もあったことかと思いますが、これからもビジネスマンたちの安らぎの場として愛理続けてください!
Moonshinerでは10周年記念イヴェントとして、19日~20日にはご来店の方にウェルカムドリンクをプレゼントしておられるそうです。
是非伺ってみてくださいね!
TEXT By n.okumura
PAGE DESIGN By y.yoshida
SPECIAL THANKS to : 目白田中屋
Published: November 15, 2011
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